1章3節346-17
「童子から若者になる迄の期間(…)異常なる心理の激動」(346-16~17)とは、柳田が14歳のとき、布川のある祠の扉を開けたところ、青天に数十の星を見たという異常心理を来たしたが、鵯(ヒヨドリ)が啼いて正気に戻ったという逸話(『故郷七十年』1959年、㉑45)と関わっている。「体質の上に、如何なる痕跡を遺すものであつたか。はた又遺伝によつてどれだけの特徴を、種族の中に栽ゑ付けるものであるか」(346-17~18)は、1937年の「山立と山臥」の中で、修験道という異彩を放った信仰の歴史的発生を論じつつ、山伏の気質と習慣が日本人の気風に刻みつけた側面を探究すべきだと論じた(㉒484~485)ことと連なっている。「日本国民が古くから貯へて居た夢と幻との資料は、頗る多彩のものであったらしい証拠がある」(346-19~20)とは、『青年と学問』での「宗教の最初の刺戟となつた夢やマボロシの色々の変化といふやうな、至つて取り留めの無い種族現象の痕跡までが、調べて行く方法があり(…)」(「青年と学問」1925年、④24-4~6)という文章と通じている。[岩本]