込み入つた調査

1章1節341-8~9

「調査」とは、いわゆる社会調査を念頭に置いた言葉。社会調査と目されるものは、横山源之助『日本の下層社会』(1899年)など明治期から存在するが、大正期に入ると、大原社会問題研究所(1919年創立)など民間の調査研究機関による調査活動に加え、内務省社会局(1920年設置)などの行政機関や、東京市をはじめとする地方団体による調査が行われるなど、「調査節」(添田唖蝉坊、1917年頃)で「明けても暮れても調査調査また調査」と揶揄された時代となり、1920年にははじめての国勢調査が実施された。それらと、『世相篇』における「新しい企て」(「自序」337-3)とは、扱う対象において重なる点があったことなどから、『世相篇』が何でないかを示す例として「調査」という言葉を用い、それを「込み入つた」「大衆にも向かず」「次から次への変化には間に合わぬ」と評した。柳田は、農政関係の著作では統計資料を活用しているように、そうした調査を否定したわけではないが、あわせてその限界を指摘し、それとは異なる方法を自覚的に追究しており、その意味でも『世相篇』は「新しい企て」(「自序」337-3)であった。[山口]

物遠い法則実験の歴史外部の文明批評家外国旅客の見聞記外国の旅人は日本に来て殊に耳につくのは~