1章1節342-7
柳田國男が構想した郷土研究(民俗学)は、常に「比較」することを求めていた。『世相篇』には、二種類の「比較」が説かれている。一つは、この「新しい現象」と「最近に過去の部に編入せられた今までの状態」とを比べ、各自の経験にもとづき生活の変化を理解する「比較」である。もう一つは、第15章で主張される、「地方は互ひに他郷を諒解すると共に、最も明確に自分たちの生活を知り、且つ之を他に説き示す必要を持つて居る」という、比較のダイナミズムの可能性である(667-11)。
前者を縦の比較とするなら、後者は横の比較ということになる。「縦の比較」は、歴史の専門家の力を借りずに歴史を構想するための手続きであり、「横の比較」は、問題を抱えたもの同志が大きく「団結」していくための一歩であるとされた。
『世相篇』における「比較」は、学問における科学的な手続き以前に、何より自ら歴史と現在を知り、問題を認識したもの同志が団結する変革への第一歩としての意味が与えられており、それは実践としての「比較」だということができるだろう。[重信]